IB修了生の声・教員の教育実践事例

DPというユニークな経験を通して得たもの

川野 弦太さん

名古屋国際中学校・高等学校 2024年3月卒

川野 弦太さん

名古屋国際中学校・高等学校を2024年3月に卒業。現在は鹿児島大学医学部に在籍し、保健学科作業療法学を専攻している。

IBを通して身についた力

 自分からアクションを起こす能力です。IBに入る前はいろいろなことに対して消極的で、例えば授業中に先生に質問したり、手を挙げて問題を解いたりすることはあまりしませんでした。しかし、IBに入ってからは様々な場面で自分から行動することが求められるようになり、特にそれを感じたのが課題論文(EE※1)でした。EEではテーマ決め、スーパーバイザーの依頼、調査、執筆のすべてを自分の力で行わなければならず、とても苦労しました。最初は今までの学校生活との違いに戸惑いましたが、探究課題(IA※2)、EE、CASなどの様々な活動を通していくうちに、だんだんと慣れていきました。それまでの私は「失敗したらどうしよう」という不安にとらわれて行動をためらうことが多かったのですが、実際には、失敗しても失うものは想像よりも少なく、むしろ失敗を恐れて何もしないことの方が大きな損につながると気づきました。当たり前のようでいて自分には見えていなかった視点であり、IBがなければこの気づきはもっと遅れていたと思います。

※1:生徒が関心のある研究分野について個人研究に取り組み、研究成果を4,000語(日本語の場合は8,000字)の論文にまとめる(EE、課題論文)。

※2:IBDP教科の探究課題。所属校において評価が行われる(IA、内部評価課題)。

IBで身につけた力は、その後どのように活かされていますか?

 IBで培った能力の中でも、特に役立っているのが「人前で話す力」です。IBに入った当初は発表のたびに緊張してばかりでしたが、何度も発表経験を重ねるうちに自然と慣れ、今ではかなりスムーズに話せるようになりました。大学では発表の機会が多いため、この力が大いに活きています。
 その「人前で話す力」が思いがけず大きく役立ったのが、解剖実習でのプレゼンテーションです。このテストでは、解剖された遺体を前に筋肉や神経を一つずつ正確に説明する必要があり、内容の理解だけでなく、緊張の中で落ち着いて話す力が求められます。IBで発表経験を積み、聞き手を意識しながら話す感覚を身につけていたおかげで、当日はプレッシャーに飲まれず、ミスなく説明しきることができました。満点を取れたときには、「IBで発表を重ねてきた経験がここにつながった」と実感しました。
 また、レポート作成の場面でもIBの経験は大いに役立っています。IBではIAやEEなど長文課題が多く、文章の構成や論点整理に慣れているため、大学で文字数の多いレポート課題が出ても苦労することがありません。この点は日々の学びの大きな支えになっています。

TOK(知の理論)で学んだこと

 TOKの学習を通して学んだのは、「都合の悪い根拠」を考えたうえで主張をするということです。TOKでは客観的な分析をすることが求められましたが、特にTOK小論文の「主張を支持する根拠と反対する根拠を説明したうえで結論を出す」という形式は、私の考え方に大きな影響を与えたと思います。どのような人でも、客観的であろうとはするものの、やはり自分の主張に都合の良い根拠を用いたくなってしまいます。そのため、客観的であるには、自分にとって都合の悪い根拠についても深く考えるべきだと、TOKを通して学びました。
 これを踏まえて私は、医療の課題を「医療者側」だけでなく、「患者の視点」からも捉えるよう意識するようになりました。また、他人の主張に対しては、主張に欠けている視点がないかを考えることで、主観的な主張に飲み込まれないようにしています。

CAS(創造性・活動・奉仕)で印象に残っていること

 私が取り組んだCASの中で特に印象に残っているのは、公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンが設置・運営する「ドナルド・マクドナルド・ハウス」でのボランティア活動です。この活動を通して、私はボランティアの意義に気づくことができました。
 「ドナルド・マクドナルド・ハウス」は子供が入院している親のための宿泊施設で、私はそこで清掃やベッドメイクなどのボランティア活動を行いました。活動を通して職員や利用者の方々と交流するうちに、この取り組みが多くの保護者にとって精神的にも経済的にも大きな支えになっていることに気づきました。同時に、もし自分の子どもが入院するような状況になっても、この施設があれば安心できるだろうと感じるようになりました。
 世の中には助けを求めている人が大勢いますが、それを他人事だと放置してしまうと、いざ自分が当事者になったときに誰も助けてくれなくなるかもしれません。ボランティア活動は、ただの自己満足ではなく、安心して暮らせる社会をつくるうえで重要な意義を持っているのだということを、この経験を通して強く実感しました。

大学受験や進路選択で意識したこと

 はじめはIBでの経験を無駄にしないためにも海外の大学に進むべきだと考えていましたが、IB修了生や先生の話を聞くうちに、日本の大学でもその経験を活かせると考え、国内の大学を選びました。
 大学受験で意識したことは、なるべくIB入試を選ぶようにしたことです。総合選抜などのIB資格を使わない試験も選択肢にありましたが、苦労してIBの資格を手に入れたのだから、せっかくならその資格を評価してくれる大学に入りたいと思ったからです。
 私はもともと医学を学びたいと思っており、IB入試を導入している国内の大学を中心に進学先を選びました。その際に工夫したのが、履修科目の選択です。医療の分野に進むことを念頭に置き、Pre-IB(通常高校1年生にあたる、DPに入る前の準備期間)からDP1に進む際には、医科系の入試で重視される科目を優先して選びました。具体的には、生物(Biology)や数学(Math)を上級レベル(HL※3)で履修するようにしました。

※3:6科目のうち、3~4科目を上級レベルHL(Higher Level)、その他を標準レベルSL(Standard Level)として学習する。

今後のキャリアについて

 私は現在、作業療法を学んでおり、直近の目標は国家試験に合格して作業療法士の資格を取得することです。その後の進路についてはまだ模索中ですが、大学院に進学して作業療法、特に精神障害の分野を研究する道も考えています。そう考えるようになったきっかけは、EEでの研究・執筆活動です。
 最初はどこから手をつければよいのか迷い、八方ふさがりのように感じていました。しかし徐々に研究が楽しくなり、テーマに対して自分なりの答えを見つけ出したときの喜びは大きく、また挑戦してみたいという気持ちが芽生えました。作業療法を学ぶ大学生の多くは大学院に進まず、卒業後すぐに働くケースが一般的ですが、せっかくEEで研究を体験し、その面白さに気づくことができたので、私は大学院に進み、その経験を活かしたいと考えています。

IB校での学びの環境や人との関わりで、印象に残っていること

 IBに入ったばかりの頃の私は、英語がほとんどわからず、先生の会話の内容もまったく理解できませんでした。そんな時には、周りの英語が話せるクラスメイトに「今先生がなんて言ったか教えて!」と聞いていました。それ以外でも、困ったことがあるとすぐに周りに助けを求める一方で、同じくらい周りを助けていました。クラスメイトのIAの添削をしたり、悩みを聞いたり、受験情報を共有したりと、毎日助け合いながらIBを続けていました。
 IBでは授業が慣れない英語で行われ、課題も多く、IAやEEの提出期限も重なるため、最終試験に近づくにつれて負担は増す一方でした。振り返ると、IBのカリキュラムによるストレスは並大抵のものではありませんでしたが、それを乗り越えられたのは、クラスメイトと助け合っていたからだと思います。

最後に:IBを選ぶか迷っている後輩に伝えたい―英語が苦手でも大丈夫

 IBを始めた当初、私はほぼ英語が話せず、数学の教科書を翻訳機にかけながら読んでいたほどでした。始まって2か月ほど経ったときには、IBをやめようか悩んだこともありました。しかし、なんとか授業についていくことができ、最終的にはディプロマを取得することができました。この経験から、IBにおいては最低限の英語力があれば最後までやり遂げられるということを、IBを選ぶか迷っている高校生に伝えたいと思います。

Vol.21_IB修了生 川野さん