IB教育の好事例
市立札幌開成中等教育学校2021年度卒
今野春子さん
IBプログラムのMYP,DPを経て現在、お茶の水女子大学グローバル文化学環2年。国際協力、国際関係の分野に興味を持つ。現在タイのタマサート大学へ留学しており、2024年5月まで国際政治学を学ぶ予定。
アジアからの視点で学びたい思い
私はお茶の水女子大学のグローバル文化学環に所属し、国際関係学の中でも文化やアイデンティティなど社会学的な側面を中心に学んでいます。現在、交換留学プログラムを通して、タイのバンコクにあるタマサート大学に留学中で、政治学の中の国際関係学を2024年5月まで学ぶ予定です。
高校の進路選択時、海外大学に進もうか迷いましたが、もし日本国内に進学するなら長期の留学はしようと決めていました。そしてお茶の水女子大学に入学した後、留学先を考えるにあたって、そもそもの留学の目的について深く考えました。イギリスなどの英語圏はとても魅力的でしたが、私は英語力の向上のためではなく、自身がアジアで生まれ育っている事、経済的、政治的にも発展し変化し続けているアジア圏からの視点からの国際関係を学ぶことが意義深いと感じたことから、大学で選択肢があったタイを選びました。タイの大学には様々な背景の人が多く、英語は通じましたが、タイ語を学ぶことが楽しくて、大学の授業の他に個人的にタイの語学学校にも通っています。タイの現地の学生と留学生ではそれぞれのグループにまとまりがちでしたが、タイ人とのつながりを求め、サークル活動の紹介の場に参加しました。そこでタイの学生との接点ができるボランティアのクラブに出会いました。そのクラブに入るための面接では、ボランティアをする意義について質問をされ、私たち学生がたった2週間、その村で何かをしても、世界は何も変わらず大きな影響力はないかもしれませんが、そういった問いを持ちながら活動をする事に魅力を感じました。1月には2週間ほど、バンコクからバスで15時間かかるミャンマーとの国境付近の地域で、建物の修復や子供たちとの交流、料理を一緒に作るなどのボランティアの活動を行いました。その地域ではタイ語とは異なる言語が話されており、あらゆる面でコミュニケーションに苦労しましたがとても貴重な経験になりました。タイでは隣接する国も多く、肌の色、人種、宗教などが違う人々が集まっており、タイの寛容性と多様性を肌で感じています。
IBがなかったら選んでいなかった自分の進学・留学先
現在、在籍している大学や留学先は、IBで学んだ事がなかったらしていなかった選択です。私が受けた入試は新フンボルト入試という総合型選抜。一次試験ではゼミを聞いた後に課題を提出、二次試験は図書館入試で論文や本を引用しながら抽象的なテーマに答え、次の日にグループディスカッションと面接をするものでした。私は家族が驚くほど自信があり、それが合格に繋がったのではないかと思います。その理由はやはりIBDPで様々な話題について探究したり、高校生レベル以上の文章量を書いたりしてきた経験があったからです。毎日の学びで当たり前に議論や意見の言語化をしてきたことも理由の一つだと思います。
IBでのディスカッションで培われた様々な視点を結びつける考え方が自分の学びの特徴
IBの授業の中で一番社会的な話題を取りあげていたのが、EnglishBの授業。機械化、情報化、AIロボットに関するような幅広い科学的な話題から、「愛とは何か」という哲学的な話題まで、いろいろな本や記事を読みました。ディスカッションにおいて、自分たちの学年では文系の生徒と理系の生徒で考えが分かれる場合が多く、概念的な話題に対しても、哲学的、感情寄りな言葉で語る文系生徒と、科学的な言葉を使って語る理系生徒が議論しあい、様々な視点を知ることの楽しさを知り、更に深く考えさせられました。それを知って豊かになっていく自分を感じました。日本語の文学では、扱う話題も似通っていて、社会的地位が人間を拘束するという主題の作品では、アイデンティティクライシスなどを扱ったEnglishBの授業と重なる事がありました。教科を跨ぐ、文系と理系の見方の違いの他にも、お互いの環境や背景の違い、嗜好の違いなど多岐な要素での価値観の生まれ方がありました。卒業する頃には仲間同士で自由にディスカッションをし合う環境ができており、みな多様な意見に寛容でしたが、現実の世界の問題に対し、高校生、大学生という世代の中で何かを結論づける難しさを感じ、「グローバルで多様な視点をもっと知りたい」という気持ちが生まれました。今、国際関係学で、政治と経済と文化といろんな側面を学んで、改めて色々な視点を得た上でないと解決に向かっていくのは難しいと感じています。
私は暗記が苦手なのですが、最近一つ習得した学び方のコツは、学んだ複雑な事象を単純化し一つのワードで頭に残し、そこから紐づけて思い出すことです。それは友達同士で教え合う経験から来ています。DPの課題は高校生には内容も難解で量的にも多く、やりきるのは簡単ではありませんでしたが、得意なものを教え合い、書いた文章を添削し合い、忌憚のない意見を言い合って切磋琢磨しました。情報を単純化し、理解しやすい具体的な説明をするスキルを習得することがいかに実社会に応用できるかと意識することが、自分の今の考え方、脳の動き方につながっていると思います。
大学院に進学するなら海外でしたいという気持ちがあり、就労してもどこかで海外と繋がっていたい気持ちがあります。高校からの揺るぎ無い学びへの興味と、自分のできる事とのバランスを取っていきたいです。IBの経験でから学ぶことが楽しいと感じており、学び続けること、自分のライフステージが変わっても、生涯ずっと何かを学び続けている人でありたいので、それが実現できるような仕事、働き方、生活ができる道がないかと考えています。去年2月に参加した大学の研修先のブータンは経済指標ではなく幸せを図る幸福指数で国の豊かさを測る国で、実際に行ってみてメンバー全員で「発展とは、幸せとは、発展途上とは」という問いを肌で感じることができました。物質的な豊かさでは日本よりも劣るかもしれませんが、仏教の影響や家族の在り方などから来る幸せな生活が感じられました。発展途上国と先進国の分け方も相対的であるのかとも考え、国際協力をするなら、国連などで、指導的な立場よりも実際にそこで生活している人々に近い形で活動することが、自分の感覚に合っていると感じています。自分のできる範囲で実際に交流しながら、やりたいことをすることに主軸はあると感じています。
IB生へのメッセージ
DPと聞くと、難しいイメージが先行して、ためらいを感じたり、選択肢が狭まるという懸念を抱いたりする人もいるかもしれません。私も同級生たちも楽しそうだからやってみたいというその一心で選択したところがありましたが、簡単な選択ではないと思います。しかし、自身の可能性や視野を広げ、得られるものは多いと思います。IBプログラムで学ぶと「勉強って楽しい」と強く実感できます。DPを取る事で、一般の高校生活の一部である学校行事や部活への参加が難しくなったりしますが、努力と工夫で両立している人もいます。失うものが全くないというわけではありませんし、時間的・労力的にも大変ですが、それ以上に得られるものの価値が本当に大きく、一緒に学んでいく仲間はかけがえのないものになると思いますので、自分の可能性がどれぐらい広がるのだろうと楽しみにしながら取ると良いと思います。