IB教育の好事例

東京都立国際高等学校 2020年3月卒
湊 七海さん
東京都立国際高等学校を2020年3月に卒業。カナダにあるHuron University College at Western UniversityでBA Honours Specialization in Psychology with a Minorin Ethicsを修了。卒業後は東京の会社にて勤務。
IBを通して身についた力
高校でIBを学んだ経験を通して、探究心や批判的思考力、生涯学習者としての姿勢が自然と身につきました。IBでは「なぜ?」と問い続け、自ら調べ、考え、表現する学びが重視されており、そのプロセスの中で主体的に学ぶ力が育まれました。
地理の授業では渋谷でフィールドワークを行い、都市の変化を自分の目で確かめながら、理論と現実を結びつけて考える経験を得ました。通りの雰囲気やごみ・グラフィティの量、建物の新旧から再開発の歴史を読み取るなど、実地での観察を通して多角的に物事を分析・評価する力が養われました。
こうした学びを通じて、情報を鵜呑みにせず、異なる視点から検討し、自分の考えを構築する力が培われたと感じています。
IBで身につけた力の活用
IBで培った探究的な姿勢と批判的思考力は、大学での心理学研究に大きく活かされました。
Extended Essay(EE※1)やInternal Assessment(IA※2)など、自ら問いを立てて調査・分析・考察を行う課題を通して、現象の本質に迫るための問いの立て方を実践的に学びました。
卒業論文のテーマを設定する際には、先行研究を批判的に検討し、まだ誰も扱っていない独自の切り口を見出すことができました。そのとき、「IBをやっていて本当によかった」と実感しました。
現在の仕事でも、IBで培った「自分の視点で課題をとらえ、根拠をもとに考えを深める姿勢」は大きな支えになっています。複雑な課題に直面したときも、異なる分野の知見を組み合わせながら最適な解を模索できるのは、IBで身につけた探究心と柔軟な思考力があってこそだと感じています。
※1:生徒が関心のある研究分野について個人研究に取り組み、研究成果を4,000語(日本語の場合は8,000字)の論文にまとめる(EE、課題論文)。
※2:IBDP教科の探究課題。所属校において評価が行われる(IA、内部評価課題)。
TOK(知の理論)で学んだこと
TOKは、私にとって成功体験よりも失敗から多くを学んだ科目です。正直に言うと、TOKエッセイの成績は決して良いものではありませんでした。その原因は、高校生の自分にはあまりにも壮大すぎるメタ倫理学的な問いを選んでしまったことにあります。
この失敗経験から学んだのは、壮大な問いを探究する際には、まず身近で具体的な知識の領域から着実にアプローチすることの重要性でした。問いが大きすぎると感じた時は、まず自分の扱える範囲に焦点を絞り、そこから徐々に考察を広げていくべきです。これは、今社会に出て働いていても使えるノウハウだと感じています。TOKは、謙虚な姿勢で探究を続けることの大切さを、教えてくれた科目です。
CAS(創造性・活動・奉仕)で印象に残っていること
CASでは、分野の異なる3つの活動に継続的に取り組みました。Activityとしては、チャリティイベント「ヤマソン」に参加し、友人とチームを組んで山手線一周42kmを踏破しました。Serviceでは、放送倫理・番組向上機構(BPO)に毎月レポートを提出し、倫理的に優れている、あるいは問題があると感じたテレビ番組について自分なりの見解を論じました。そしてCreativity(+Service)では、セーターを編み、暖かい服を必要としている海外の子供たちへ寄付する活動に参加しました。
CASの活動を通じて、規模に関係なく多くの社会活動団体が存在することを知り、社会との接点が意外と身近にあることに気づきました。正直、最初は「やらなきゃいけないから」という気持ちで、普段行かない場所に足を運んだり、知らない人と話したりしていただけでしたが、その一歩が自分の視野を広げるきっかけになりました。
大学受験や進路選択で意識したこと
私の場合は高校を決める段階で海外大学に進学したいという目標がありました。よって、海外大学へ行きやすくしてくれる高校というのが軸でした。その時に、都立で唯一IBを導入している都立国際高校の存在を知りました。当時はちょうどIBコースが開設されて間もなく、私の代が入学することで3学年が揃うタイミングでした。都立国際高校が「パイオニア精神」を校風に掲げていることもあり、今振り返ると、当時はなんだかんだわくわくしていたのではないかと思います。
大学受験に関しては、IBスコアだけで行ける海外大学という目標だったので、ひたすらIBスコアを上げることに集中出来ました。周りの一般入試を受験する友人たちに比べて、リマーク(再採点制度)やリテイク(科目ごとの再試験)、模擬試験(MOCK)もあったので、恵まれた環境だったと思います。
IB校での学びの環境や人との関わりで、印象に残っていること
IBコミュニティの“アツさ”に気づいたのは大学入学時でした。2020年に大学へ入学した私は、オンライン上で友達作りをすることから始まりました。しかし、私がIBの卒業生だと伝えると、「私も! 何の科目取ったの?」「EEは何のテーマで書いた?」と話しが盛り上がり、すぐに打ち解けました。大学を卒業した今でも多くの学友がIB経験者です。
日本ではまだIB生はマイノリティかもしれませんが、ふと見渡してみると「同志がこんなにいたのか」「IBコミュニティって大きい!」と驚いたのを覚えています。しかも、当たり前ですが、同じカリキュラムでも各々の出身校で特色が異なり、千差万別なストーリーがあります。
自己紹介の場では、時間がないと名前と出身地だけで終わりになりがちですが、IB生同士だと話の展開が一気に深いところまで発展しました。例えば、私の元ルームメイトは、コロナ禍で最終試験が中止になり、一発逆転にかけていた数学の成績を挽回できなかったという苦い経験をした一方で、政治経済を専攻するに至った経緯として、環境問題の不条理を政策から改善したいという熱い想いを語ってくれました。これらはすべて、EEや選択科目の延長線上にある話題でした。
IB校を卒業してから、IB修了生の結束力とネットワークに圧倒されたのは、この時だったとしみじみ感じます。