IB教育の好事例

IB教育で得た学びと未来の可能性

田邊 由佳さん

Overseas Family School

田邊 由佳さん

Overseas Family School(シンガポール)にて4歳~9歳まで5年間PYPを学ぶ。 日本に帰国し東京大学に入学後、名古屋大学に編入。現在医学部生として日々研究に励む。

IBスクールとの出会い

 4歳のときに、父の仕事のためシンガポールに引っ越しした。そこで両親はせっかく海外に来たのだから、と日本人学校ではなくインターナショナルスクールを前提に進学先を決めたようである。幼かったため、あまり覚えていないが、それまで日本で通っていた公立幼稚園と違った大きな敷地や70か国以上の国々から集まった生徒がいるということに魅力を感じた記憶がある。したがって進学先自体はIB校だから選ばれたというよりは他の点で選ばれたのではないかと思うが、様々な教育プログラムがある中でそこがIB校であったことは幸いだったと現在感じている。

IBの授業はどんなもの?

 学期単位でテーマが定められ、その期間中はどの科目でもそれに沿った題材を勉強することが多かった。例えば、『Weather』というテーマであれば、理科では物質の三態、社会では地理の気候についてを学ぶ。多くの場合、それぞれの科目は独立のものとして扱われ、各々のカリキュラムが別々に進むものであると思うが、大きなテーマの中でカリキュラムが構成された点が他と違うように思う。
 先の単元の際、各生徒が自分の出身地(かぶった場合は近隣の別都市)の天気を毎日調べ、教室に貼り出した大きな世界地図の上に自分の調べた天気情報を1週間ほど貼りつけるアクティビティがあった。学習内容としては世界の天気予報を見れば分かる内容ではあるが、それを各々が自らの出身地を担当し、調べて掲示するのがまさにLearner Profile(IBの学習者像)のCommunicators(コミュニケーションができる人)とOpen-minded(心を開く人)が目指しているものであると感じたため、大変印象に残っている。

IBで成長したことや、予想を超えた学びの成果は?

 学校全体としてIB学習者像(※1)を重視しており、学期始めにはこれらに対して目標をたて、学期終わりにはその目標がどれだけ達成できたかを振り返る事になっていた。これを通じ、客観的な自己評価につながっただけでなく、目標が未達成など負の状況でもどのように表現すれば好印象につながるかを学んだ。これは受験や就職活動の面接等で現在まで大変役に立っている。
※1:IBの学習者像について(詳細はこちら) https://ibconsortium.mext.go.jp/about-ib/

IBの課題やプロジェクトで大変だったこと

 IBはPYPの経験しかないこともあり、自分自身はそこまで大変だった記憶はない。しかし、宿題として頻回にだされるプロジェクトは各々が家庭で実験をしたり、博物館等に出かけ調べたり、それをまとめて発表しなければならないため、特に低年齢であるPYP生においては取り組み内容が家庭に依存する。夏休みの自由研究をテーマ制限のもとで毎月のように行うようなものであるから、サポートしてくれた母は相当大変だったのではないかと思う。感謝している。
 また、自分自身は人前で発表するのがあまり好きではなかったので、プロジェクトと切っても切り離せない発表が苦手であった。発表のたびのフィードバック(e.g. アイコンタクトが少ない、等)があったので、評価項目や特にいつも評価の低い項目を意識して発表を行うことで、今も苦手意識は残るものの、「発表良かったよ!」といってもらえるような発表ができるようになり、IBに感謝している。

大学受験はどのように取り組みましたか?

 大学受験は一般受験で東京大学理科二類を受験した。東京大学入試の数学や理科では空白の解答用紙を渡され自由に記述する方式なので、単に問題の解答を記すだけでなく、どのように考えた結果そのような解答に至ったかを示すことのできる自由度がある。したがって、IBを通して自分の思路をうまく伝えられる力を培えたのは有益で、IBで学んだ「良いCommunicator」であることは役に立ったと考えている。IBは自分と向き合うだけでなく、他人と向き合うきっかけにもなった。 試験などのためではなく、自分の興味のために勉強するInquirer(探究する人)になれたし、それによって多くの機会を得られたと思っている。
 東京大学入学後は、『国際生体分子デザインコンペティション(BIOMOD)』という機能性分子を設計し、実験を行ってその成果をアメリカのUniversityof California, San Franciscoで発表する学部生向けの分子工学の大会に参加したことで、帰国後に1年生でありながら学会発表を経験することができた。現在は名古屋大学医学部に在籍しているが、自発的に空いている時間に手術室に訪れ手術を見学したり、学会に参加したりして知見を深めている。また、主体的に動くことで学部中に二度、アメリカに短期間ではあるものの留学し、University of California, San Diegoでは低酸素研究、University of Pittsburghでは膝関節の動態解析の研究にかかわることができた。大学を卒業すると試験などはなくなるが、そういった学びを強制する因子がなくても、きっと今後も好奇心を持って勉強できると思うし、技術の発展がこれだけはやい世の中では能動的に勉強しなければ追いていかれてしまうであろうからそのような力を身につけられてよかったと思う。加えて、発表スキルが身についたことは大学の授業や実習での発表、卒論発表、学会発表など多くの場面で活かされている。

IBの学びは日本の学生にとってどんな良い影響を与えるか?

 学会等で他の人が発表する場面を目にする機会があるが、発表している内容がいくら良くても、スライド構成や声の大きさ、スピード、アイコンタクト等の非言語コミュニケーションによってせっかくの内容が伝えきれていないように感じる事が多い。従来の日本の教育でもよいInquirers、Knowledgeable(知識のある人)、Thinkers(考える人)は高水準で育成できていて大変よいものであると思うが、やはり、それをうまく伝えることができなければ意味がなく、情報伝達スピードが速くなった現代ではますます大切になっていると感じる。発表の機会を小さいうちから多く持つことができ、よいCommunicatorであることも目標のIBで学ぶことは、将来どのような職につきどのように生きるとしても役に立つのではないかと思う。実際自分はIB校に通うことがなければ確実に今より発表は嫌いかつ苦手であっただろうと思う。
 また、インターネット等の発展に伴いこれまでは交わることがなかった人々が出会い、関わることが増えている。それによってSNS上では様々な対立や論争、またそれによる不買運動や企業の謝罪文を見かけることも頻繁で、Open-mindedであることやCaring(思いやりのある人)であることは単に道徳的に正しいというだけではなく生きていくうえでの必須スキルになりつつあると感じている。この点でもIBでの学びは日本の学生に良い影響があるのではないかと思う。