IB教育の好事例

「IB教育によって身に付いた学際的な学びへの興味と、生涯学習者的な姿勢」

中原瑠南さん

加藤学園暁秀中学・高等学校卒 2022年度卒

中原瑠南さん

2022年加藤学園暁秀高等学校を卒業、University College London (UCL)へ進学。柳井正財団第6期奨学生。UCL在学中に参加したソウル大学でのサマースクールを通じて、更に自身が進む方向性が明確になったと感じている。

IBを通しての挑戦と地球市民としての意識

私は幼少期から高校まで一貫校である加藤学園に通いました。中学三年生の時に高校でもIBプログラムを続けるかどうか迷いましたが、それによりDP資格取得という意味だけでなく、将来海外に行く可能性や、日本の大学への進学など、幅広い選択肢を意識できるようになると感じました。IBはチャレンジングだという印象を持っていましたが、失敗してもそれほど大きなリスクがない時期に、新しい挑戦に取り組んでみるのは面白そうだと考えIBプログラムでの学びを続けることを選びました。

中学生の頃は、自分で全てをやろうとして肩に力が入っていた時期でした。一方で、高校に入り、DPで学ぶ様になると、人に助けを求めることができるようになり、また周りも私に頼ってくれることに気づき、それが嬉しく感じたことを覚えています。勝ち負けではなく、みんなで自分の持っている知識やスキルをお互いに交換し合って、共に問題に取り組むという姿勢が普通になりました。このような高校でのDPの二年間は、私にとって最も影響が大きかったと思います。しかし、コロナウイルスパンデミックの影響により、様々な変化も生じました。オンライン授業や休校の増加が原因で、物理的にはクラスメイトと繋がることが難しくなってしまいましたが、同じ学びや目標を共有し、同じ最終試験を目指していることが連帯感を高めることに繋がったようにも思います。そして、クラスメイト一人一人がまさに地球上の市民であると意識するようになりました。それぞれが抱える独自の事情やLGBTQに対する考えなど、個々の経験や視点を知り、地球規模や国の規模での問題に対する理解も深まり、抽象的な概念が身近に感じられるようにもなりました。日々の学びの中で議論をして、それぞれの考えを聞いたり自分の思考や信念などを客観視できたりするというのは、一般的な高校生活ではあまり経験できないことなのではないかと思います。自分の意見とは違っても、否定や正誤判定ではなく、なぜそのように考え、その様な結論に至ったのかという点について、対話を通じて深めていく機会が多くありました。このようなクラスメイトとのディスカッションの経験を通して育む、意見交換や理解のためのスキルは、日常生活にも落とし込めると感じました。PYPとMYPの6年間の経験が最後のDPの2年間に結びつき、こうした互いの成長へと繫がっていったと思います。

IBの科目の中で、化学は大変でしたが一番好きで楽しかったかもしれません。歴史の授業は、最初は非常に苦手で成績も振るわず、とても悔しく不甲斐なく感じました。しかし、最終的には最高得点の7を取る事ができて、この学びの過程がとても貴重な経験となりました。IBでは一時的な活動の結果だけではなく、二年間に渡る継続的な取り組みを評価されていると感じ、自分に対する成長や努力に自信を持つことができました。以前は自分の意見を述べることが難しいと感じていましたが、そうした気持ちへの自分なりの攻略法を見つけることで苦手意識も薄れていきました。先生方の素晴らしいご指導、数あるフィードバックや具体的なアドバイス、同級生同士の意見交換などにより、スキルを掴んでいったように思います。今でも自分がどのように分析をして文章を書いていたのか、歴史のエッセイを見返したりもします。IBでの経験は、大学でも必要な学び方のスキルであり、大変役に立っています。

高校のIB歴史の授業が学際的な学びへの興味につながった

大学進学先は海外と日本から選ぶことになりました。その当時、University College London (UCL)の情報を得て、実際に進学できるかどうか確証はありませんでした。学費などの要因も考慮し、柳井財団の奨学金へ応募することにしました。葛藤しつつもこの一連のプロセスを経たことで、奨学金や大学への応募に関しては迷っても自分で決めるという自分軸が重要だと感じました。そして、現在、私はそのUCLに在籍しています。専攻はアーツ&サイエンスと呼ばれる学際性を重要視する学部で、様々な授業を組み合わせて独自の学びを追求できる構成です。社会に出た時に、複雑に絡み合っている事象に対して一つの学問領域のアプローチだけでは限界がある事が多くあります。そういった問題に対処するためには、自分の中に学際的な視点を統合し、新たな価値を生み出す事が、必要なのではないかと思います。私は特に人類学、言語学、アート、デザインに興味があり、それらの分野の授業を中心にカリキュラムを組んでいます。人類学と言語学は私たちが世界をどのように捉えているかという点で深く繋がっていると感じています。そして、自分が学んで考えたことや、持っている問いなどをアートとして表象するという事に取り組んでいます。技術的には、主に写真を重ね合わせるコラージュなどの技法を用いたデジタルなアート表現で、学期の最後にはエキシビションで作品を展示する予定です。

この分野に興味を抱くきっかけは、IBのTOKも含めたIB歴史の授業からでした。当時、ヒトラーなど「独裁者」に焦点を当てた学習をしていました。一人ひとりが異なる視点で世界を見ているはずなのに、なぜ独裁者が生まれ、なぜその時代の人々は独裁者の言葉に共感し従ったのか。こうした疑問の中で、スピーチや言葉の力に焦点を当てることで更に興味が深まりました。学際的に学んでいると、一つの物事を思い込みのまま鵜呑みにしないという態度が身につきます。様々な方向から視点を広げ、違うアプローチを試す事ができるのが学際性の強い考え方の利点です。いろんな方向に行ったり、寄り道したりすることで新しく見えてくるものがあります。一本道ではないからこそ、面白い発見や学びがたくさんあると感じています。

デザインとコミュニケーションをつなげた学際的視点を追及していきたい

昨年の夏休み、ソウル大学のインターナショナルサマースクールに参加し、韓国メディアとコミュニケーションについて学びました。私はもともと韓流アイドルが好きだったので、韓国のソフトパワーについて興味を感じ、BTSを研究している教授の授業を受講しました。すると独裁者の表出と同じ文脈でアイドル文化を捉えることができ、BTSの社会に与える影響力が実際に日韓関係に大きな影響を与え、関係改善の一歩を進める、民衆の意識を変える一翼を担っているように思えました。そこでもコミュニケーションとデザインなど、異なる分野が繋がっていると実感し、デザインとしての視点から、どのように多様な人々に対して情報やメッセージを効果的に伝え、共感を生むかについての分野を深く理解したいと考えるようになりました。もうすぐ就職活動の時期ですが、どのような選択をしたとしても、いつかは大学院に行って生涯探究を続けていきたいと思っています。

IBプログラムで学ぶことを考えている方へのメッセージ

私の大学は、国籍など多くの異なるバックグラウンドの学生で構成され、多様性が高く、学生の間で共通の問題・関心事を見出すことが難しいように感じます。しかし、そうした中でIBプログラム経験者の学生たちの繋がりが生まれています。これは想像していませんでしたが、バックグラウンドが違っても、IBの考え方が共通言語の様に働くことで話が盛り上がったり、苦労した事もお互い理解できたりするので、IBを取って良かったと思います。

IBは素晴らしい教育の枠組みだと思いますが、そこで学んだ学びのスキルや姿勢を、最終的にどう活用するかは自分にかかっていると思います。だからこそ、IBの学びは非常に価値があったと感じます。卒業後も学びを続けたり、活動を続けたりする力が生まれるのは、自分で責任をもって取り組んだ結果を受け止める過程を経ることで、自信を得ることができるからだと思うのです。高校時代のチャレンジは失うことが少ない一方で、経験や実績、スキルを自分で得ることができる絶好の機会です。ここで得たスキルは、生涯ずっと活き続ける事になるのではないかと感じています。

IB修了生インタビュー(中原さん)0517